大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和36年(く)90号 決定 1961年10月20日

少年 K

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、原審は、少年に対する前記保護事件について、昭和三十六年八月二日少年を中等少年院に送致する旨の決定をしたが、少年は、最近漸く自己の前途についてまじめに考慮するに至り、将来は好む道である音楽によつて身を立てることを決意し、ビクター音楽学院に入学し、勇躍通学して勉学にいそしんでいたところ、悪友に誘われ飲酒の末分別を失い、本件各傷害を犯したが、抗告人らの見るところによれば、このことが少年の猛省を促す動機となつたのであつて、将来再びかかかる犯行をくりかえすことは想像できないし、抗告人らも今後は充分少年を監督する心組でおり、また、少年には昭和三十六年二月婚姻した姉のY子があつて、本件少年の犯行及び処分がその婚家の知るところとなれば、その累は、右Y子にも及び、ひいては一家全体の不幸をも招来することとなるのであつて、以上に徴すれば、原審の処分には少年法第三十二条にいわゆる処分の著しい不当がある。よつて、原決定を取り消し、更に相当の裁判を求めるため、本件抗告に及んだというのである。

よつて、記録を調査し、少年の年齢、学歴、境遇、家庭の事情、交友関係、本件各犯行の動機、態様等を勘案し、ことに少年に対する要保護性の程度等について考察すると、少年は、昭和三十三年四月東京家庭裁判所において初等少年院送致の決定を受け、千葉星華学院に収容されたところ、数多くの反則事故を起したため、中等少年院たる印旛少年院へ移送されたが、同院においても反則事故をくりかえし、昭和三十四年七月二十一日同院を仮退院したのち暫くの間は一応落ちついた生活ができるやに見受けられたが仮退院による保護観察を受けていながら保護司による指導監督を好まず、原決定理由記載の1の犯行をなし、その後、東京家庭裁判所調査官の観察に付せられたのちも、徒遊、外泊、夜遊、不良な友人との交際あるいは飲酒等の非行を続け、その間、同理由記載の2の犯行をなし、警察での取調に対しても更に反省の色がなく、更に同理由の3記載の犯行をなすに至つたものであつて、保護司による保護観察の成績や家庭裁判所調査官による観察の成績も極めて不良であり、また、少年の知能程度はやや低く、勤労意慾にも欠け、その性格にも爆発性、自己顕示性、気分易変性及び即行性が見られ、抗告人らの主張するビクター音楽学院への入学も真実音楽で身を立てるためではなく、むしろ、一種の就職逃れの方便とみられる節もあり、なお、少年の生活環境の面においても、両親とも少年の行動についてはいささか放任的であつて、いずれも充分な保護能力を有しているようには考えられないのである。

以上を総合すると、少年の犯罪的危険性は極めて高度であつて、これを矯正するには少年の環境を調整する必要があり、それがためには、従来の在宅保護の措置では、極めて不充分であるから、少年法第二十四条第一項第三号により、少年を中等少年院に送致し、もつて規律ある矯正教育を受けさせる必要があるといわなければならない。それ故、これと同趣旨に出でた原決定はまことに相当であつて、該決定にはなんら所論の不当はない。

よつて、本件抗告は理由がないから、少年法第三十三条第一項後段に則りこれを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 松本勝夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例